さて、国産初の自動巻腕時計は１９５６年１月、セイコー自動巻（別名：自動巻１号巻印付き）１７石が発売されました。
当時は最高級品で大変高価であった（注１）にも拘わらず、新しモノ好きや、裕福な購入者が結構いらっしゃったようで、一方の製造現場では巻印部分の組立、調整の苦労が絶えなかったそうで、需要に製造が追い付いていませんでした。
当時のセイコーニュースＮｏ．３（１９５７．４）には下記のような「お詫び」が掲載されています。
「セイコー自動巻は現在のところ生産の関係で充分にはご要望に添いかねておりますが、極力増産につとめておりますから暫くご猶予ください。」
後に、改良型の２１石が発売され、角形ケースの製品もあります。（画像は、１８Ｋケースの製品！！） (注１)：当時の大卒国家公務員初任給：￥８，６００
セイコー自動巻ＡＧＦ：￥１６，０００
他の手巻式腕時計製品と比較して如何に高価な時計であったか→１９５８年の小売店価格表
３．自動巻腕時計の普及を図るべく、ジャイロマーベルの登場
メーカーの予想に反して、国産初の自動巻腕時計は好評でしたが、やはり高価なもので一部のユーザの物でしか無く、自動巻腕時計の普及を促進させるために、若年層への購入促進を図るため販売価格を押さえる必要がありました。
画期的発明の自動巻機構に「マジックレバー」を使用し、基礎輪列にマーベル（正確にはローレル）の機械を使用することで、製造コストを抑えることに成功しています。（当時の現金正価：￥５，９００（ＳＳ側））
４．セイコーマチックの発売。自動巻全盛期へ
１９６０年当時の消費者が腕時計に求めるもの（いわゆる「消費者ニーズ」）はだんだんと多様化して来ました。
具体的には、
・防水性
・高級品指向（高精度の機械、品格ある外装デザイン）
・多機能（カレンダー、曜日、秒針規制装置）
・第三者との差別化（多石化、文字板デザイン）
その時代の要求に答えるべく、セイコーマチックは発売から約７年間、様々な製品展開がなされました。
５．８３セイコーマチックの発売。薄型、多石化への対応
セイコーマチックの発売から３年後の１９６３年、薄型化に対応するため、新設計の「８３系」が発売。
ペットネームも「セイコーマチックスリム」から「SEIKOMATIC-R」になり、６２系では敢えて落していた手巻機構も付加。ケース、文字板の外装デザインも「セイコースタイル」に移行しました。
ビジネスマン用の時計を意識したデザインとなり「BUSINESS」、「BUSINESS-A」も登場しました。
６．ロードマチックの発売。腕時計に求められる機能＋デザインの時代
１９６０年代の後半になり、初代セイコーマチックの生産が終了を迎える１９６７年、マチックの系統を継承した高級機として「５１マチック−Ｐ」、若年層向けの普及機として「５１ファイブ」が登場。
更に機能が進化し、手巻機構の標準装備、リューズプッシュ操作による日付クイックチェンジ、精度の安定のためテンプの振動数を従来の５から５．５振動に上げました。更に１９６９年発売の「プレスマチック」は、マチック系初の高振動（８振動）となりました。（高振動化はその後、市販の製品では１０振動まで、試作機では５０振動も作られました！！。）
「５１マチック−Ｐ」、「プレスマチック」には亀戸製の機械らしい日付、曜日瞬間送り機構を搭載しています。
更に、１９６８年発売の「５６ロードマチック」は、手巻機構の標準装備、世界初のリューズ操作による日付曜日クイックチェンジ、曜日の和英文字表示選択装置を搭載。
機械精度の面でも、振動数を６振動とし、緩急微動調整装置、秒針規制装置を標準装備とした。
防水性を向上させた「ワンピースケース」を多く採用し、外装デザインのバリエーションも恐ろしく豊富な品揃えとなった。
グラデーション文字板、カットハードレックスガラスなどの７０年代テイストが反映されたものが登場。
５６系は「キングセイコー」、「キングセイコーヴァナック」、「グランドセイコー」にも進化し、機械式腕時計の完成期を迎えた。
７．機械式腕時計の終焉
防水、自動巻、日付曜日機構、高振動化により腕時計として完成の域に達した機械式も、１９７０年のクォーツ式腕時計の登場により衰退の一途を辿ります。
クォーツに最高級品の座を譲ったグランドセイコーもスペシャルモデルの「VFA」や、凝った外装デザイン製品が発売され存在を誇示していましたが、時代が求める高精度（日差→月差）、コストダウン、メンテナンスの容易性には到底及ばず、ひっそりと消えて行ったのでした。