SEIKO−PRESMATIC
5146

Original:2004/11/06
Last Update:2010/05/30
Japanese text only


製品名:セイコープレスマチック

 キャリバーNo:5146A

 石数:27、30石

 略称:51PMW

 機械落径:25.60mm

 機械厚ミ:4.95mm

 テンプ振動数:28,800回/時

 発売開始(セイコーセールス資料):
  1969年9月

 最古確認個体:
  1969年8月
  (情報提供:tibiko氏)

 最新確認個体:
  1970年10月

1.特徴

マチック系初の高振動機構を搭載した、亀戸工場製のハイセンスな高級自動巻腕時計です。

セイコープレスマチック 27石・30石:新製品紹介
(セイコーセールス:1969年10月)より
生活の個性化、多様化時代を迎えて、機能とデザインを個性的にまとめた新しいタイプの高級腕時計を……というお客様の要求にお応えして、製品化されたハイセンスな高級自動巻腕時計……セイコープレスマチックが新しく発売されます。
セイコープレスマチックは、自動巻、日付、曜日、秒針規正装置を備え、テンプは精度の安定した8振動(28,800回/時)の高振動メカニズムを採用しています。
日付、曜日は12時に同時に変わる瞬間日・曜日送り装置付です。
すぐれた機能性と安定した精度に裏付けられた残新なデザインのセイコープレスマチックは、個性的な高級時計をお求めのお客様にきっとご満足いただけるものと確信いたします。

標準小売価格 SS・WP………19,000円

 高振動機構「ハイビート」の技術は1960年代後半、諏訪、亀戸セイコー全社を挙げての機械式腕時計の「目玉商品」として開発、発売されました。
高振動機として最初に市販されたのは、1967年の10振動(36,000回/時)機「ロードマーベル36000(5740C)」ですが、それ以前に高振動化への歩みは1966年の5.5振動(19,800回/時)「セイコーマチックウィークデーター39石(6216A)」から始まっていました。
(一般的には、テンプの振動数が「8振動以上」を高振動機と定義します。また、婦人用腕時計においては、1960年代前半においても5.5、および6振動が主流だった様です。)

高振動時計
「’68 SEIKO紳士用ウォッチ技術解説書」より引用
腕時計を高振動化するには、材料、潤滑、加工などの総合した技術を必要とします。
セイコーでは、高振動に関する研究を長年にわたり行い、輪列および脱進機関係、高弾性ゼンマイ材料の開発、新しい潤滑油などの諸問題を完全に解決し、国産で初めての高振動腕時計ロードマーベル36000の商品化に成功しました。
その後、むずかしいとされていた小型婦人用時計でも世界最初の高振動時計ハイビート36000、自動巻高振動時計として61グランドセイコーなどをつぎつぎと発売し、携帯精度がすぐれしかも安定していることで、市場から多大な好評をいただいております。

高振動機構「ハイビート」への歩み(主要機種のみ)

テンプ振動数
発売年月
ペットネーム
略称
石数
Cal.No
5.5(19,800回/時)
1966年2月 セイコーマチックウィークデーター MAWK
39
6216A
1966年3月 セイコーマチッククロノメーターカレンダー 6245
35
6245A
セイコーマチッククロノメーターウィークデーター 6246
39
6246A
1966年8月(注) グランドセイコーセルフデーター GSS
35
5722B
ロードマーベル規正付き LMK
23
5740B
1967年3月 51セイコーマチック−P 51MW
33
5106A
1967年6月 51ファイブ 51−5
23
5126A
1967年9月 51ファイブデラックス 51−5D
27
5139A
6(21,600回/時)
1967年5月 61ファイブデラックス 61−5D
21
6106A
1968年1月 56ロードマチックウィークデーター 56LMW
23・25
5606A
10(36,000回/時)
1967年3月 ロードマーベル36000 LM36
23
5740C
1967年9月 19ハイビート36000(女持10振動)
25
1944A
1968年2月 61グランドセイコーカレンダー 61GAC
25
6145A
61グランドセイコーウィークデーター 61GAW 6146A
1968年4月 300mダイバーウォッチ 6159
25
6159A
1968年8月 19グランドセイコー(女持) 19GS
25
1964A
1968年9月 45グランドセイコー 45GS
25
4520A
45グランドセイコーカレンダー 45GSC 4522A
1968年10月 45キングセイコー 45KS
25
4500A
45キングセイコーカレンダー 45KSC 4502A
1969年4月 45キングセイコークロノメーター 45KCM
25
4502A
8(28,800回/時)
1968年8月 25クィーンセイコーハイビート ??
??
25??
1968年10月 56キングセイコーカレンダー 56KAC
25
5625A
56キングセイコーウィークデーター 56KAW 5626A
1969年4月 56キングセイコークロノメーターカレンダー 56KCM
25
5605A
56キングセイコークロノメーターウィークデーター 56KCW 5606A
1969年9月 51プレスマチック 51PMW
27・30
5146A
1970年8月 56グランドセイコーカレンダー 56GAC
25
5645A
56グランドセイコーウィークデーター 56GAW 5646A
1970年11月 52ロードマチックスペシャル 52LMW
25
5206A
1971年3月 52キングセイコーカレンダークロノメーター 52KCM
25
5245A
52キングセイコーウィークデータークロノメーター 52KWM 5246A
(注)セイコーセールス1966年8月号に「SEIKOウォッチ・テンプ振動数変更のお知らせ」に記述あり。

上記は全てではありませんが、これだけでも1967年以降、怒濤のハイビート製品ラインナップですね。(^^;)

一方1960年代後半セイコーでは、次世代腕時計としてクォーツ腕時計の開発に着手していました。
(市販製品は1969年12月25日に発売された世界初のクォーツ腕時計「35SQ:アストロン」です。)

その背景から当時の腕時計販売戦略は、下記の「2本立て」であったと思われます。
1.クォーツ腕時計の販売、普及促進
 グランドセイコー/キングセイコーに代表される機械式腕時計の最高級品を遥かに上回る超高精度腕時計としての製品化、販路拡大。
2.機械式高振動腕時計の販売促進
 精度ではクォーツに追い越されたものの、従来のロービート機よりも安定した精度、求め易い価格(クォーツと比較して)、斬新なデザイン、製品としての信頼性をアピール。

1970年当時発売されて間も無いクォーツは、量産体制が整っておらず、販売価格、製品としての安定性、信頼性では未だ機械式が優位であったでしょうし、修理の対応についても部品供給、修理技術の面で「街の時計屋さん」では対応出来なかったと聞いています。
セイコーとしても「機械式もまだまだ行ける」との想いから高振動機の開発、量産に入ったものと思われます。

しかし1970年代前半から、「クォーツショック」と言われるこれほどまでの急激なクォーツ式腕時計の普及、機械式腕時計の衰退をメーカーのセイコーでさえ予想していなかったのではないでしょうか。

ここで注目すべきは、腕時計高振動化はSEIKOグループとして共通のテーマであったものの、そのアプローチ方法が諏訪と第二では異なっていた点です。
諏訪精工舎(長野)では「実績ある既存機種の熟成」とでも言うべき改良、チューンUPを行い「ロードマーベル規正付(5740A)」→「同5.5振動(5740B)」→「同36000(5740C)」を市販製品化しました。
一方、第二精工舎(亀戸)では「既存概念にとらわれない斬新な新機種の開発」を行い、諏訪精工舎に約1年遅れながらも国産腕時計史に燦然と輝く「45系」、現在の「4S系」の始祖「52系」を登場させました。更に、これらの機種には「瞬間日送り機構」というコダワリの付加機能も付けられています。
(ただし、19と51系は既存機種のバージョンUPであり、第二精工舎も既存機種のチューンの可能性を探っていたのは事実のようで、44系キャリバーをベースに、高振動化(HI-BEAT)の試作機が製作されていたのです。4420Aグランドセイコーの20振動、4402キングセイコーセルフデーターの10振動機などです。その貴重〜な画像をBQさんの博物館で見ることができます。)

この動向は両舎の性格を良く表していると思われます。
・諏訪精工舎(長野):「鳴かせてみようホトトギス(豊臣秀吉)」(既存を改良して作ってみよう、ハイビート)
・第二精工舎(亀戸):「殺してしまえホトトギス(織田信長)」(既存がダメならそれを超えるものを新しく作ってしまえ、ハイビート)
とでも申しましょうか。(^_^;)

また、高振動機の普及の過程において5.5振動→10振動→6振動→8振動の順に製品化されているという点にも注目です。(10振動機が登場した後に敢えて振動数を下げた製品を出しているということ。)

当時の他社製品を見ても、シチズンは「レオパール10」、「ハイネス」、そして「GC:グロリアシチズン」、オリエントは「テンビート」という10振動製品を出していましたが、現行機械式製品を見渡しても8振動機が主流のようで、10振動機は舶来品クロノグラフしか無い様です(注)。
注:2004年11月現在、管理人の知る範囲で 。
これはやはり10振動機の特殊性を物語っているのではないでしょうか?
確かに携帯精度における10振動の安定性はズバ抜けたものがあるようですが、機械の保守性(部品の耐久性)については厳しいものがあり、実用上は8振動に落ち着いたというのが実際のところのように思われます。

(2006/1/4:追記)当時のSEIKOの高振動化に対する方針が「商品として精度のみならず耐久性も考え、最適振動数を適用していく」というものであった。各商品に最適な振動数が求められた結果、6振動、8振動、10振動が生まれたのです。(下記参照)

世界をリードするSEIKO高精度腕時計 −その高振動化について−
「SEIKOセールス1969年11月」より引用 (2006/1/4:追加)
 ゼンマイのトルクを強くし、テンプの振動数を高くすると、調整は容易となり、精度は飛躍的に向上します。
ただ、この方法によると、テンプの振動数が通常の時計の倍近いため、やがて磨耗によって振角が減退し、精度が落ちるという耐久品質の面の問題があります。
これに対しSEIKOは、高振動化の技術の開発に当たっては、当初から、ゼンマイの強さを耐久性を考えた適切な強さに設定し、各部品の耐久性を向上させながら高振動化を図る研究を進めました。
高振動化のメリット(長所)は、動的精度即ち携帯精度の向上にありますが、同時にこの高い精度は長期間にわたって維持されなければなりません。
高振動化に対するSEIKOの基本的な考え方は、消費者の立場にたったすぐれた商品としての高振動高精度時計を開発する、という点にありました。このためには、材質・加工処理などで耐久性を高める研究を重ねるとともに、コンピューターを駆使して、ゼンマイ、輪列効率、脱進機、自動巻などトータルシステムとして解析して、最適の振動数の割り出しに努めました。その結果、おのおのの時計に固有の最適振動数が見出され、10振動、あるいは8振動が採用されています。
また、紳士用ばかりでなく婦人用についても高振動化の研究を進め、婦人用の小型ムーブメントでは高振動化は困難という従来の考えを破って、19ハイビート36,000を開発しました。
さらに、一般の時計についても振動数の増加がはかられ、現在では、ほとんどの紳士用腕時計が6振動以上となり、婦人用腕時計の一部(サルビア、17クィーンセイコー、11ソーラースペシャル)にも6振動を採り入れ、いっそうの安定化を実現しております。
商品として精度のみならず耐久性も考え、最適振動数を適用していくという一貫したSEIKOの考え方を認め、最近、海外でも8振動時計を開発する例も現れています。このように、高度の理論と技術の積み重ねから得られたSEIKOの高精度腕時計は、まさに世界をリードするすぐれた商品ということができます。

2.外装

51マチック−Pと同様、高級品にふさわしい落ち着きを感じさせる外装である。
すべて金属バンドが標準装備で、革ベルト製品は無い。

(1).ケース

全てスクリューバックの防水ケース仕様。丸みを帯びた角形や、卵型の変形ケースが多い。
特筆すべきは側質がSS、NSP(硬質合金処理側)の2種類のみで、何と、SGP側(金色)製品は存在しなかったのである!!。
ハイセンスなデザインを実現するためには金色は不向きと判断されたのであろうか?

輸出専用製品には文字板に「Presmatic」の植字ロゴを配した金色側製品が見られるが、その機械は5106A(33石)であり、51マチック−Pの海外バージョンと言える。

 画像の製品は、キャリバー5106Aを搭載したプレスマチックである。
文字板インデックスと長短針に黒のアクセントを配し、引き締まった印象を与えている。
ケース形状も「セイコーマチッククロノメーター」「62グランドセイコー」に類似の優美な曲線を配した秀逸な外装デザインである。
画像提供:ぷらな氏

(2).文字板

ADのみ確認。
「Presmatic」のロゴが27石は植字、30石は黒のプリント文字
30石の銀文字板は黒のプリント文字、黒文字板は植字。

(3).金属ブレス

1960年代中期より防水ケースが標準仕様となり、金属ブレスが標準装備となった。

当時の金属ブレスは国産品ではなく、米国「STELUX社」製であった。
1971年の製品カタログでは、価格体系は1,200円〜5,000円と、かなり高級なブレスであったようだ。(情報提供:621rock氏)

ケースと金属ブレスのマッチング(一体感)を意識した製品は、マチック系では51マチック−Pや、このプレスマチックあたりからその傾向が顕著になっている。
バックルにペットネーム「Presmatic」を刻印した、まさに専用バンドを装備した製品は、この「プレスマチック」が最初ではないだろうか。
(56ロードマチックの初期製品バックルには「SEIKO」と入っており、「LM」の刻印が入っているのは1969〜70年頃と推定される。)

この傾向は、ベルマチック(ビジネス・ベル)(1967年)、56ロードマチック(1968年)、56キングセイコーヴァナック(1972年)で完成の域に到達し、更にその後の初期クォーツ製品にも引き継がれている。

5146−7010専用金属バンド

SEIKO
Presmatic
STAINLESS STEEL
(右側のマークはSTELUX社のもの?)
5146−701

3.機械

5106Aの香箱車上下穴石、一番、二番仲介車上下穴石を省略し、高振動化したもの。
高振動化のため、5106Aよりテンプの直径が小さくなり、ガンギ車の歯数が増加している。

(1).基礎輪列

石入個所

ペ ッ ト ネ ー ム
51マチック−P
プ  レ  ス  マ  チ  ッ  ク
キャリバーNo(略称)
5106A(51MW)
5146A(51PMW)
5146A(51PMW)
香 箱 車 上 下 穴 石
二 番 車 上 下 穴 石
三 番 車 上 下 穴 石
四番車上下ダイヤフィックス
ガンギ車上下ダイヤフィックス
アンクル上下穴石、爪石
テンプ上下ダイヤショック、振石
秒 針 カ ナ 上 下 穴 石
一 番 仲 介 車 上 下 穴 石
二 番 仲 介 車 下 穴 石
切  換  伝  エ  車
一  番  伝  エ  車
合     計
33石
30石
27石

機械外観

5106A(33石)
5146A(30石)
プレスマチック5146A(右)は、ハイビート化のためテンプ直径が小型化されている。
また、香箱車上下穴石が省略されていることが確認できる。

(2).自動巻機構

51マチック−Pと同様。

自動巻ローター

5106A(33石)
5146A(30石)
5146A(27石)
5106A後期ローター(左)と、刻印の表記位置は同一。これは製造時期からも裏付けられる。
  5106A後期:1968年以降と推定。
  5146A:1969年10月以降。
5146A(30石:中央)と(27石:右)は刻印がオレンジと青色で異なる。

(3).カレンダー機構

51マチック−Pと同様の瞬間日・曜日送り方式。

4.当時の価格

ペ ッ ト ネ ー ム
CAL No.
石数
側質
防水
現金正価
セイコープレスマチック
5146A
27石
SS/SS
防水
18,000
SS/SS(ハードレックス付)
19,000
30石
SS/SS
20,000
SS/SS(ハードレックス付)
22,000

5146 Archive

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