Seikomatic Archive

Original:2010/05/22
Last Update:2010/05/23
Japanese text only


ロードマーベルは1958年に発売された国産初の「テンプ片振修正装置」を装備した最高級紳士用腕時計です。

Seiko Lord Marvel 彫り文字板


 1960年12月に初代グランドセイコーが発売されると、最高級品ではなくなったものの「キングセイコー」、「クラウンスペシャル」と共に「高級ライン」での販売は継続された。

 国産乗用車で例えると、トヨタのクラウンがロードマーベルで、最高級車センチュリーがグランドセイコーといったグレード構成で、セルシオ/レクサス登場後もクラウンの国産高級車のイメージが不動のものであったように、ロードマーベルも国産紳士用高級腕時計の代表製品であり続けたのである

1961年5月製造 ケース番号:J14038


ロードマーベルは、機械(キャリバー)の種類により、3種類に大別される。

旧 型
新 型
(規正付)
ハイビート
(36000)
製造開始
1958年5月
1964年6月
1966年8月 
1967年3月
略 号
LM
LMK
LM36
キャリバーNo
な し
5740A
5740B
5740C
秒針規正装置
な し
あ り
な し
テンプ振動数
5
(18,000回/時)

(18,000回/時)
5.5
(19,800回/時)
10
(36,000回/時)
外装(ケース)
非防水
非防水/防水
防 水
防 水

 旧型は、「マーベル」を思い切り高級化したもの。(*1)
 新型は、「クラウン」をベースに新設計された緩急微動調整装置がレバー式の5740Aが前期、緩急微動調整装置が歯車式でテンプ振動数が5.5振動に変更された
(*2)5740Bが後期製品。

(*1)戦後の国産腕時計 セイコー/タカノ(1994年トンボ出版)長尾善夫・木村好孝 共著より引用
(*2)SEIKOセールス1966年8月号に「SEIKOウォッチ・テンプ振動数変更のお知らせ」に記載あり
グランドセイコーセルフデーター(GSS)、ロードマーベル(LMK)のテンプ振動数が変更になっている。

旧型5振動キャリバー(テンプ片振り修正装置がネジ留め)


 外装(文字板/ケース)からは、次のように分類される。

旧 型
新 型
(規制付き)
ハイビート
(36000)
文字板
Sマーク
あり
なし
なし
な し
な し
ペットネームロゴ
彫り文字
印字
印字
印字
SEIKOロゴ
な し
な し
あ り
あ り
外装(ケース)
非防水
非防水
防水
防水


 

 ロードマーベルの安定した高精度は、1961年から通産省中央計量検定所が実施した「長期精度比較試験」第1回〜3回の全てにおいて第一位という快挙で実証された。

「再び実証されたセイコーの精度」
「国産外国製腕時計の長期比較試験でセイコーロードマーベル第一位」
SEIKO NEWS NO.58 (1963/4)より引用
それまで通産省が主催で行った国産時計品質検査がメーカーから持ち込まれた時計について行われていたのに対し、この国産・外国製腕時計の精度比較検査に使用した時計はいずれも東京都内のデパートや時計店から検査所係員が抽出、購入したもので、すでに購入時30日間にわたる試験の結果は昭和36年5月に発表されました。
その時もセイコーロードマーベルが一位となり、セイコーの優秀さが実証されました。
その後計量検定所では第1回の試験で成績がよかった時計をメーカー別に抜き取り、1年半にわたって日常生活で使用した上、昨年10月、これらの時計を集めて前回同様の試験を実施(第2回)、その後全部を分解注油して昨年12月に第3回の試験を行いました。(中略)

この試験では外国製より国産が優位を占め、特にセイコーのロードマーベルは減点法で118点というすばらしい成績で1位となったのです。


第1回〜3回 各試験成績順位表
第1回 昭和36年 5月 購入時試験結果
第2回 昭和37年10月 1年半使用後試験結果
第3回 昭和37年12月 分解注油後試験結果
第 1 回
第 2 回
第 3 回
1位
セイコー・ロードマーベル
セ イ コ ー
セイコー・ロードマーベル1号機
2位
外 国 製
セ イ コ ー
セイコー・ロードマーベル3号機
3位
セ イ コ ー
セ イ コ ー
グランドセイコー2号機
4位
セ イ コ ー
セ イ コ ー
国 産 他 社
5位
セ イ コ ー
国 産 他 社
セ イ コ ー
6位
外 国 製
外 国 製
国 産 他 社
7位
外 国 製
外 国 製
シチズン・スーパーデラックス1号機
8位
国 産 他 社
国 産 他 社
外 国 製


 同試験結果により、従来の舶来神話(※3)が完全に否定されたことと、セイコーが上位を独占、しかもロードマーベルが3位のグランドセイコーより上位であったことは特筆に価する。
 同試験は1961年5月に実機を購入して行われたことから、この時のロードマーベルは、旧型5振動機(略号:LM、キャリバーNoなし)であったと思われる。(※4)

 (※3)腕時計は外国製品が優れており国産製品は劣る、という当時の俗説
 (※4)SEIKO NEWS NO.58 (1963/4)掲載のロードマーベルの
画像は旧型5振動機である。当時のグランドセイコーは1960年12月
発売の初代3180である。

1963年1月製造 ケース番号:15023E
旧型5振動キャリバー(テンプ片振り修正装置のネジ廃止後)



 1960年代半ば、自動巻/カレンダー主流の時代になっても手巻カレンダーなしの高級機の需要は存続(※5)し、1964年後半にロードマーベルは、クラウンをベースとした新設計のキャリバーに移行する。

 (※5)セイコーウォッチカタログNo.1(1966年7月)の手巻ページより引用
『自動巻がかなり普及してまいりましたがやはり手巻を好まれる方もおられます。
SEIKOでは普及品から高級品まで幅広く取揃えております。』

新製品紹介
「セイコーロードマーベル(新)23石」
SEIKO NEWS NO.73 (1964/7)より引用
発売以来セイコーロードマーベルの優れた精度、安定性、落ちついたデザインは常に高く評価されて来ました。そして今なお地味ながら確固たる地位を保っています。
そこで、このたびこのロードマーベルが新時代にふさわしい装いでスタートすることになりました。
この新しいロードマーベルには秒針規正装置、微動緩急装置がついて魅力が増したほか、機械に新しい技術による種々の改良が加えられ、より安定した腕時計になりました。
ロードマーベル規正付(LMK) 1964年5月製造
 
ケース番号:5740−1990(非防水)
クラウンベースの新型キャリバー5740A

 更に、1965年後半に防水ケース製品が登場。1966年後半にはテンプの振動数を5.5振動に上げたキャリバー5740Bに進化した。

5.5振動(19,800回/時)キャリバー5740B

(左)1965年11月製造SS側 (右)1966年5月製造SGP側
 
ケース番号:5740−0010(防水)
(左)1967年2月製造SS側 (右)1966年11月製造SGP側
 
ケース番号:5740−8000(防水)

 そして、1967年3月、国産腕時計初の10振動キャリバー5740Cが製品化され、クォーツ式腕時計が普及した1978年頃までロードマーベルは、手巻式高級機としての『地味ながら確固たる地位』を堅持したのである。


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