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56ロードマチックの弱点は?

Original:07.1.7
Update:07.1.11
Japanese text only


56ロードマチックの日付/曜日早送り機構は壊れやすい、と言われています。

ロードマチックの弱点は?

カルビー製菓 仮面ライダーカードNo.510より
ライダーの弱点は?

本郷は、変身しようとしている。
それ!タイフーンが、光り、回り始めるぞ!
ブラック将軍は、これを8ミリカメラに撮って、ライダーの弱点を研究した。その結果、弱点は、このタイフーンを止めれば変身できないことだと知った。
そこで立てたのが、ライダー冷凍作戦だ。

 世界初の日・曜修正装置を搭載した56系。それ!リュウズの左回し操作で日付が、右回し操作で曜日が回り始めるぞ!。更に曜日は、和文字/英文字の表示が選択できるぞ!
管理人Kは、これをデジタルカメラに撮って、日・曜日切替機構の弱点を研究した。その結果、弱点は、この揺動レバーの修正歯車がスリップしてしまうと日・曜日の修正ができなくなることだと知った。

56ロードマチックのページ『日曜修正機構の解説画像を後日追加予定です。しばらくお待ち下さい』と書いて早、1年10ヶ月を経過してしまいました。(書いたのは2005年3月。)
この間、2005年4月に職場の異動で仕事が多忙になった、ということもあったのですが、56ロードマチックの初期固体、それも揺動レバーの修正歯車が金属製の最初期製品を入手するのに約2年を要した、というのが正直なところでした。
(昨年12月に、最初期と思われる裏蓋シリアルNo.1968年3月の個体を2本入手しました。)

* * * * *

 何故、揺動レバーの修正歯車が金属製の最初期製品を入手する必要が有ったのか?
それは、某時計師さんのサイトに『56系日付/曜日早送り不能の原因が揺動レバーの修正歯車という部品にあり』、『初期製品は金属製、後に合成樹脂製に変更されトラブル頻発』と書いてあったからです。
 私は、故障の原因は合成樹脂製の修正歯車の磨耗、および、経年劣化により、カレンダー切替え禁止時間帯(午後8時〜翌午前1時間)における切替え操作で日車/曜車を送る爪が簡単に折れてしまうのだろう、と思っていました。
 それならば、修正歯車材質が金属製の最初期製品であれば、経年劣化がほとんど無いし、爪が折れることも少ないハズで、トラブル発生はかなり少ないハズです。
 しかし、初期製品でも日付/曜日早送り不能の故障は結構発生しているらしいのです。
これは初期製品の現物を入手し、破損状況を実際に確認するしか無い、と思ったわけです。

問題の56系揺動レバー検証の前に、セイコーマチック62系の切替機構を見てみましょう。

セイコーマチックウィークデーター(6206B)
金属製の日修正車(6206B)
62系の日送りは、筒車から中間車を介して日送り車を回す。日送り車には日送りツメが固定されているので筒車がまわると日車が回る。
日付修正は、リュウズを2段目に引き出した状態で金属製の日修正車による日付カレンダーの早送りが可能である。
ただし、曜日の早送りはできない。
また、午後8時〜翌朝午前1時までの間は、日送り車による切替え動作中のため日付け修正はできない。

では、問題の56系の日・曜日切替機構を見てみましょう。

文字板側から透過状態で見る。(5606A)
文字板を外した状態。(5606A)
曜車には和文字と英文字が交互に印字してある。

曜車を透過状態で見る。(5606A)
曜車を外した状態。
右下に日車と曜修正伝エ車を動かす揺動レバーが有る。
画像の固体は揺動レバーの「修正歯車」と、左側にある「曜送りツメ」が後期の合成樹脂製である。

56系の日・曜日切替機構の実際の動作を見てみましょう。

日・曜修正装置の動作(gifファイル:660KByte)

リュウズを2段めに引き出した状態でリュウズ左回転で日付けの修正が、右回転で曜日の修正または曜文字の和英選択ができる。


揺動レバー3種
揺動レバー構造図('68 SEIKO紳士用ウォッチ技術解説書より)
左:修正歯車が金属製
中:同 合成樹脂製(黒色)
右:同 合成樹脂製(灰色)
修正車軸と修正車との間には若干の摩擦抵抗により修正車の回転方向により揺動レバーが左右に軽く作動するように「修正車座」を入れてある。



揺動レバー検証の結果、日付/曜日の早送りができなくなる原因は、日車/曜車を送る修正歯車の摩擦抵抗の減少による「スリップ」、および、プラスチック製修正歯車の経年劣化(割れ)により「空回り」してしまうことが原因と判明しました。(2007年1月11日修正。情報提供:マキシン氏)

修正車軸と修正車との間には若干の摩擦抵抗により修正車の回転方向により揺動レバーが左右に軽く作動するように「修正車座」を入れてあります。
この部分の摩擦抵抗が減少して来ると、修正歯車が日車および曜車を回そうとする力に負けてスリップするのです。

修正歯車の材質(金属製、合成樹脂製)には関係なく、摩擦抵抗の減少により不具合が発生する、ということなのです。
ただし、後期プラスチック製の修正歯車の場合、それに「割れ」による「空回り」が加わるため、不具合発生頻度が高くなったと思われます。

これは設計ミス?欠陥商品なのでしょうか?
56ロードマチックについて、時計師の方でさえ「あれは、欠陥製品」などとおっしゃる方がいらっしゃいますが、そんなことはありません。
当時の「世界の時計SEIKO」をナメてもらっては困ります。


何故、修正歯車を「スリップ」させる必要が有るのか?
日付切替禁止時間帯(午後8時〜翌午前1時附近の範囲)に切替え操作を行った場合の破損対策なのです。

56LMW(5606),56KAW(5626)用曜送ツメ、揺動レバー材質変更の御案内
(’70.3)より
このたび56LMW,56KAW用,曜送ツメ868560,揺動レバー981560の材質を金属からプラスチックに変更いたしますのでご案内いたします。

◇プラスチック製部品の特長
1.プラスチックは摩擦トルクが小さいのでスムースな回転をします。
2.プラスチックは摩擦トルクが安定しておりますので、揺動レバーの修正歯車と修正カナのように過大な力がかかった時スリップさせるような部品には最も適しています。
曜送ツメ、揺動レバーは、時計の針が午後8時〜午前1時の間(日曜送り時間で日送りツメと日車、曜送りツメと曜車が噛み合っている日付曜日修正禁止時間)に日付曜日をセットしますと、部品に過大な力がかかり破損することがありましたが、摩擦トルクの安定したプラスチックに変更することで破損を防止することが可能になりました。

日付曜日修正禁止時間における切替え操作は、従来の62系、83系では日修正車、日車が破損するため禁止されていました。
56ロードマチックでは、設計当初から破損対策として修正歯車を「スリップ」させる考慮をしていました(注)が、金属製の修正歯車では、摩擦トルクが強すぎたり、安定しなかったため破損することがあったようです。
(注)「’68 SEIKO紳士用ウォッチ技術解説書」には、「針が午後8時〜午前1時附近の範囲にあるときは修正装置は働かない様になっている。」という記述あり。

その改善策としてプラスチック製部品の採用で破損防止を図りましたが、今度は逆にスリップし過ぎた場合には日付/曜日を修正できなくなるというわけです。

プラスチックへの材質変更は短絡的に「コストダウン」、また安価な材質を用いることにより「機械としての格が落ちる」などと考えがちですが、修正歯車については金属では無くプラスチック部品を使用する必然性があったこと、金属部品こそが最上の素材では無いということを示唆していると言えましょう。

* * * * *


確認のため、私の56ロードマチックで日付曜日修正禁止時間帯における切替え操作を行ってみました。
(こちらを御覧いただいた皆様は、くれぐれも自己責任において行ってください。破損による責は負いかねます。)

修正歯車が初期金属製の個体では、確かに修正歯車の摩擦トルクが強すぎるようで、修正禁止時間帯のリュウズ操作は固く、それ以上回すと早送り機構を破損しそうでした。
一方、プラスチック製の修正歯車の個体もリュウズ操作は固いのですが、それ以上の力を徐々に加えて更に回すと、見事に修正歯車がスリップして破損防止になっていました!!。

サスガ、「世界の時計SEIKO」デス。当時の技術力に改めて敬意を表します。

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