Seikomatic-Archive
レディース&ジェントルメンズ

Original:05.11.10
Update:05.12.13
Japanese text only


婦人用自動巻腕時計

Seikomatic LADY 21石
セイコーマチック・レディ 21石:新製品紹介
(セイコーニュース:1963年3月)より

婦人用自動巻セイコーマチック・レディは勿論国産ではじめてのものです。
ちょっとした手の動きで自然にゼンマイがまけるという便利さが、紳士用ばかりでなく、婦人用腕時計にもとり入れられたわけです。すでに自動巻では充分な経験と高い技術をもつセイコーが自信をもっておおくりする婦人用自動巻です。

標準小売価格 AEGP側 8,200円

 古い国産腕時計を集めている人々は、主に中年男性ばかりなのです。

♪『君たち女の子〜(GoGo!)ボクたち男の子〜(GoGo!)ヘヘヘ、ヘヘヘイ』♪♪
これは、1972年に大ヒットした某ひろみのデビュー曲「男の子女の子」ですが、腕時計、それも国産の古い時計を集めている人々は(少なくとも私が知っている範囲で)男性ばかりで、女性は居りません。
また、男性コレクターで婦人用腕時計(女持ち:メモチと呼ばれています)を集めていらっしゃる人も(私が知っている範囲で)ほとんど居りません。骨董市やフリマには若い女性も多く出没しますが、雑貨や古着が目当てで、ごく稀に古い腕時計に興味を持たれる女性もいらっしゃる様ですが、アクセサリー感覚で購入されているようです。

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 先ず、何故腕時計コレクターに女性が少ないのか?
もちろん、女性でも複数の腕時計を所有している方はいらっしゃいますが、付け替えて楽しむことが目的で、男性の「コレクション」とは意味合いが異なっています。
これは、私個人的には男性/女性の「性差」だと思っています(性差別では無く性役割(※注))。言い方を変えれば、生き物の特性が異なっているためです。男の子というのは幼少の頃から動くもの(乗り物:車やバイク、鉄道)、メカニックなもの、(機械:カメラや腕時計、模型工作)に興味を惹かれるものです。女の子は可愛いもの、ファッショナブルなもの(服飾やアクセサリー)に惹かれ、お花やお人形さん、お菓子造りなどが好きなわけです。
(※性役割(Gender Role):社会や文化が性別を基準にそれぞれの個人に対して要求する「男らしさ」や「女らしさ」を指す。社会や文化はもとより、時代によっても大きく変化します。近年話題になった「性同一性障害」という問題が有ることが分かって来ましたが、話がヤヤコシくなるのでここでは省略します。)

 次に、何故腕時計コレクターに婦人用腕時計の蒐集家が少ないのか?
何より婦人用腕時計を中年男性が自分の腕に付けて日常使用ができないことが一番の原因でしょう。コレクションとしても、女性が好むデザイン、製品イメージのものが多いため、男性が感じる実用品としての腕時計の魅力的要素が少ないためと思われます。デッドストック品が多く残存していますが、人気は無く価格(相場)も安いようです。外装(ケース)が小さく華奢なものが多く、機械も小さな物になると精度を出すのが難しいため、装飾的な要素に重点を置いた製品が多いのですが、ただ、例外的に「キングセイコー」の婦人向け「クィーンセイコー」、同じく婦人用グランドセイコー「19GS」、そのベースとなった「婦人用ハイビート36000」などは男性コレクターの興味の対象となり得る魅力的な製品です。


 さて、セイコーマチックの婦人用製品ですが、紳士用「セイコーマチック」の発売から3年後の1963年3月に「セイコーマチック・レディ」が、同年12月に「セイコーマチック・レディカレンダー」発売されます。



My Lady……Only You!!

左:セイコーマチック20石
右:セイコーマチック・レディ21石

文字板の「Seikomatic」のロゴの字体は同一であるが、コママークは女性らしく「紅」が差してあり、紳士用のコマに付いている「ヒゲ」が無いデザインのコママークとなっている。(レディにヒゲが無いのは当然?(^_^;))
ケース形状も従来の婦人用腕時計の主流であった華麗な装飾は無く、どちらかと言えば実用的な中に品格を持たせたデザインと言える。

マチックレディの機械:270
長径:18.40mm、短径:15.32mm、回転錘半径:8.50mm、機械落径:17.80mm
「ジャイロマーベル」、「セイコーマチック」、「スポーツマチック」と同様に自動巻機構を乗せる構造となっている。
小さい機械でも香箱とテンプの直径を少しでも大きく取るために香箱を上、テンプを下に配置し、縦方向に長い機械形状となっている。

「マチックレディ」の外装デザインが実用的なものとなっている背景には、当時の「働く女性」を購入層として意識していたことがあります。
手巻のファッショナブルな製品は、より高級化し、自動巻は実用的な面を打ち出す方針だった様です。

「年末販売方法の研究 セイコーマチックレディの例」
(セイコーニュース:1964年11月より引用)
赤い”コマ”マークでおなじみのセイコーマチックレディはデザインが最も重要視される婦人用腕時計の中で、機能で売れる商品としてユニークな存在を誇っております。
最近の紳士用腕時計では自動巻が六割以上を占めており、さらに増加の傾向にあります。これと併行するかのように、セイコーマチックレディの需要は増大の傾向にあります。この機能に結びついた需要を調べてみますと購入者に職業を持つ女性が多くみられます。ビルのオフィスで働くお嬢さん、洋裁店でお客様に最新のデザインを説明する若い女性デザイナー、発車オーライの声もかれんなバスガール等々……。このような層がセイコーマチックレディの販売対象層と考えられます。

1967年頃の婦人用腕時計カタログ
左から「アーモンドタイプ」(ソーラー)、「ラウンドタイプ」(クイーンセイコー、ソーラースペシャル)、スクェア・タイプ(ソーラー、ファインセイコー)

1964年6月から「セイコーホワイトキャンペーン」と題して婦人用腕時計の販売促進が行われた。ホワイトゴールド(WGP)の製品を「ホワイト」グループとして、紳士用「ファイブ」、「ビジネス」グループと併行して売りましょう!というものであった。

1967年頃の「婦人用腕時計カタログ」の拡大画像を見る

上の婦人用カタログの中では、ケース形状により「しゃれたアーモンド」、「愛らしいラウンド」、「落ち着いた気品を感じさせるスクェア」の3種に分けられていますが「セイコーマチック・レディ」は、どのグループにも属せず右端に掲載されています。
これは、「マチック・レディ」が「カワイコチャングループ」とは別の「実用品」としての位置付けられていることが伺われます。
婦人用実用品「マチック・レディ」のデザインの特徴は「紳士用腕時計との類似」です。紳士用をそのまま縮小したような製品が見られます。

How many いい顔
左:セイコーマチックウィークデーター35石
右:セイコーマチック・レディカレンダー21石

意図的に類似デザインにしたのでは無く、結果的に似てしまったと思われる。
カレンダーの数字が赤色がレディっぽさを演出。

美貌の都
左:セイコーマチックカレンダー(SEIKOMATIC-R)30石
右:セイコーマチック・レディカレンダースペシャル25石

こちらは、ペア・ウォッチと言って良い程デザインが酷似している確信犯的な製品。当時の店頭でも並べて販売されたのであろうか?

マチックレディスペシャルの機械:2565A
婦人用腕時計は機械が小さいため、自動巻機構、カレンダー機構の組み込みは困難であったことが想像される。

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近年は携帯電話器の普及で腕時計を付ける人が減って来ましたが、女性も「ボーイズサイズ」や「デカ厚」腕時計を付ける時代です。
ファッションの世界では昔から「ボーイッシュ」や「フェミニン」「ユニセックス」などをテーマに、様々な装いが生み出されています。
男性が「エステ」に通い脱毛する昨今、何が「男らしさ」、「女らしさ」なのか?婦人用腕時計を通して考えてみようと思います。

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