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日付付き腕時計はお好きですか?

Original:04.1.31
Last Update:04.3.3
Japanese text only


 日付(曜日)付きの腕時計は、人それぞれ、好き嫌いがあるかと思います。

セイコーマチック・クロノメーター39石
ウィークデーター(日付、曜日付)
6246-9000
セイコーマチック・クロノメーター30石
(コラージュ(実在しません))
6241-9000


先ず、好まれない方の御意見。

 国産腕時計のコレクターで著名なN氏は著書の中で、カレンダ付き腕時計を好まない理由を「あの”日付窓”がせっかくの美しい文字板をぶちこわしにしているように思えるからです。」と述べておられます。
 ちなみにN氏は、自動巻もお好きで無いそうで「そのメカニズムが大きなロータで見えなくなっている」、「手ではゼンマイを巻き上げることができず、ほおっておくと止ってしまう。」とも述べておられます。

 まぁ、腕時計の好み、審美感というのは女性の好みと同様、何が好きか、何を美しく感じるかは千差万別、その人の価値観ですので、私は氏の好みに異を唱えるつもりは全くございません。

 私の場合は、腕時計を集め始めた頃、いろんな物に手を出してしまい、蒐集の対象を可能な限り限定しようと思いました。
 当時は独身でしたが、所詮サラリーマンの小遣いの範囲であれもコレもと手を出していては、破産してしまうと思ったからです。

 そこで、現行/ヴィンテージ、海外スイスもの/国産、セイコー/シチズン/オリエントなどの中から、先ずは、「セイコーのヴィンテージ物」というところまで絞り込みました。
 あとは、手巻き/自動巻、カレンダー有/無となって来るわけですが、機械好きの観点から手巻の進化型が自動巻と考え、機構的には興味を惹かれました。(クロノグラフは個人的には好きでは有りません。)
 カレンダーの有無については、これも機構的な興味から、日付、更には曜日表示付きの「ウィークデーター」の存在を知り、自動巻、日付、曜日付きの代表機種「セイコーマチック」に行き着いたわけです。

 この嗜好の傾向は元来、鉄道車両が趣味だった影響が有るかも知れません。
 1960年代の腕時計には、現代のJR製の車両には感じられない、旧国鉄車両が持っている独特の雰囲気に似た魅力を感じます。
 それは、要求された機能に対する実用性重視のデザイン(配色、塗装を含む)、必要最小限の装飾から形成される「機能美」です。

 鉄道車両好きの方には分かっていただけると思いますが、交直流特急型の481系200番台(貫通型)と300番台、1000番台(非貫通型)というのが有ります。
 私は、200番台の貫通路を格納式とした塗装を含む前面デザインに「機能美」を感じ、300番台には少なからず「物足りなさ」を感じるのです。

クハ481−200番台
貫通型
クハ481−1000番台
非貫通型

 200番台(貫通型)は、当初から分割/併合運用を前提とし、貫通扉を含めた全面デザインで、扉が移動するレール部分さえ、飾り帯を兼ねるデザイン上の考慮がなされています。
 300番台、1000番台(非貫通型)は、分割/併合を行わない路線での使用のため、200番台のデザインを引き継いだまま、貫通扉を外してはいるものの、飾り帯は上の部分のみを残してあり、何となく間の抜けた印象を受けます。

 何が美しいのか?、何が良いのか?というのは、実用品、工業デザインにおいては「時代が求めるもの」であると同時に、美術工芸品や絵画、音楽の芸術世界では「普遍的な美」が存在すると思うのです。

 セイコーマチックが発売された頃(1960〜1967年)の時代と、現代では時計に求められる機能、いや、腕時計の存在自体が大きく変化しています。
 先日も、普段時間を確認する方法は「携帯電話」が85.8%で最も多い、というアンケート結果が出ていました。

* * * * *

 鉄道車両の貫通扉の必然性について、雑誌「鉄道ファン創刊号」1961年7月(偶然にも、セイコーマチック発売の頃)に当時の国鉄技士長:島秀雄氏のインタビューが掲載されており、氏は、『車の恰好は目的によって自ずと決まり、貫通ドアーを付けるのはその時代の要請である』とおっしゃっています。
 私は、腕時計の日付窓の必然性とダブらせて非常に興味深く拝見しました。

 以下に、その記事を引用させていただきます。

鉄 道 フ ァ ン 訪 問 対 談

国鉄技士長 島秀雄氏(写真右)

聞き手JOKRアナウンサー 吉村 光夫(写真左)

 吉村(以下:Y)「国鉄、私鉄を問わず島さんのお好きな車は何でしょう」
 島(以下:S)「さあ、それは難かしいことを聞きますね」
 Y「やはり立場上お答えになれないのかもしれませんね」
 S「私鉄は私鉄なりに、それぞれ目的に合った車両が作られていると思うんですよ。

 − − − − − 中 略 − − − − −

  私鉄の場合は、多くの場合、他の交通機関でも間に合うことが多いと思うのです。そこで、国の動脈で
  ある国鉄の幹線を電化しようと思うし、亜幹線はディーゼル化するわけで、そうなると必要な車の恰好
  が、自ら決まってくるのです」
 Y「最近でた東海形の次の恰好の車両(注1)は、運転台の位置が少し高くなって正面の窓が小さくなりましたね。
  あれはどう思われますか」
 S「そういうこまかいことは、僕は知らないです。僕は、目的に合うようにものを作ればいいものが出来る
  のだと思いますね。おかしな飾りをつけてみたって仕様がありませんよ。
  だから国電にしても、おかしなものをつけていないはずです。
  電車の正面に貫通ドアーをつけなければならないというのは、その時代の要請ですからね。
  そういう時に体裁上のことで貫通ドアーをつけないと頑張るのはつまらないことですよ」
 Y「同じ目的で、貫通ドアーをつけても各鉄道毎に色々の面構えになりますが」
 S「それはそうです。しかし我々国鉄としては、数奇をねらっての広告的価値のあるものは、目的とは思っ
  ていません」
 Y「すると、現在の段階で島さんが一番恰好のいい車と思っていらっしやるのは」
 S「国鉄の電車です」
 Y「国電の中ではどの形式が?」
 S「またくり返しその質問ですか。それは一つずつ使用目的がちがうから何とも……“こだま”や“はつか
  り”のように前の方に物をどうしてもおかなければならないとなれば、あんな風に鼻が出っぱってしまう
  のは止むを得ないことでしよう。鼻が出っぱった恰好において、どんな形がいいかとなると、今皆さんが
  ごらんの通りのものになるんです」
 Y「それでは同じブルーリボン賞の事ですが、“こだま”と“はつかり”ではどちらに?」
 S「そうね。はつかりの方はタブレット受渡しその他の関係で運転台の位置が“こだま”より低いなど色々の
  制約があって無理をしているところがあるから、“はつかり”の方が損をしていますね」
 Y「どうもありがとうございました。技師長も満60才の還暦を迎えられておめでとうございます。
  どうぞ今後とも御健康で次々とすばらしい車を沢山登場させていただいて鉄道ファンを喜ばせて下さい」

「こだま」型特急電車
「はつかり」型特急気動車
(注1)「東海形の次の恰好の車両」

1959年(昭和34)に、新性能電車101系をベースに開発された153系直流急行形電車。
「東海型電車」と呼ばれ、急行用として東海道・山陽線で活躍した。
先頭車の前面デザインが、初期型は運転台の窓が大きな低運転台型、
500番代から高運転台型となった。

153系直流急行形電車
(初期型:低運転台)
1962年(昭和37)に登場した153系と
同系列の115系直流近郊形電車
(高運転台)

皆様は、日付付き腕時計、または貫通路(前面扉)付きの鉄道車両を「美しい文字板(前面)をぶちこわしにしている」と感じられますか? それとも、デザインと求められる機能が調和した「機能美」を感じられますか?

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